ヒッチコック『泥棒成金』 / ルノワール『恋多き女』

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《泥棒成金》(1955)時代を感じるタイトル、初のフランスロケ、ヒッチコック自身から《軽い話だからね》と言われてしまうような映画。 お高くとまったミステリ好きの凡庸なお嬢様フランセスをそのままそう見させてしまうグレース・ケリー。これ見よがしに背…

めんどくさいカップルと合図(ザ・フューチャー / ブレヒト《第一のソネット》)

フェミニストオシャレアート文化系女優小説家監督アーティスト… ゆるふわなレッテルに晒されながら頑張っているミランダ・ジュライの第二作。 いくら可愛いミランダ・ジュライでも一般的な忙しい男たちからは「めんどくさい」と言われてしまうであろう女と、…

歌のある過去 と 無表情(四川のうた / 三姉妹)

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絶えず流れに逆らいながら… 《グレート・ギャッツビー》の甘く苦い過去は誰にだって存在する。 四川省成都の国営企業の機密工場《420工場》は郊外へ移転され、解体される。《四川のうた》でインタビューを受ける人々は過去を封印し、現在の生活を成り立たせ…

悪役のメンソール と レクイエム(ハードエイト / Telephone)

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1996年。HARD EIGHT。PTAの処女作。 上から俯瞰されるコーヒーカップと煙草(セイラム)。どうしようもない悪役のサミュエル・ジャクソンがわざわざメンソールは?と聞いていたので、警備員で内か外かをひどく気にしていてさらに金持ちばかり相手にしている…

成瀬巳喜男『流れる』

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1956年、成瀬巳喜男の女の映画《流れる》 金井美恵子によると冒頭と結びで現れる川の流れが意味するものは《行く川の流れは絶えずしてしかも元の水ではなく、流れに浮かぶうたかたが結びかつ消える》という人生の比喩であることは先刻互いに承知の上らしい。…

東京暮色 / 不気味なものの肌に触れる

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1957年。小津の明るい、雲一つない青空、高架上の駅のプラットホームで挨拶を交わす人々はおらず、暗い、灰色の空の下、雪まで降って、高架下のイメージを引き取った人々の暗い話。 原節子でさえ疲れている。二人娘の父たる笠智衆は何度問いかけても話をして…

出産に立ち合わない男は存在しない(アイス / マイルストーンズ)

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立誠小学校の簡素な映画館というか教室で見るには長過ぎるロバート・クレイマーの60ー70年代の二本《アイス》《マイルストーンズ》、左寄りの京都でも観客は少なく、3、4人の男たち、一週間だけの上映でこの数、というのはわかる気もする。 映写機のカ…

征服者は常に敗北者によって征服される(アクト・オブ・キリング)

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そら吐きたくもなるわな… 1965年、インドネシア、共産主義者と華僑の100万人以上が虐殺された歴史の端っこにいるヤンキーたち…こんな奴らの行ないから人間の尊厳だの悪とは何かと言われても… 主人公が設定されるドラマチックなドキュメンタリー、今作…

ポール・トーマス・アンダーソン『マグノリア』

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アルトマンから継いだ群像。微妙につながっている。群像劇は要素の繋がり、伏線、その回収が次々に継起して進んでいき、その中心に作家が見えるためフィクション、特にエンタメの形式であり、今作も中盤で登場人物各々に同じポップスを歌わせてフィクション…

マームとジプシー《まえのひ》 / 地点《ファッツァー》

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京都、元立誠小学校の音楽室というかつて使われていた木造の一室は過去のものであるかぎりにおいて時間の経過をそれ自体が示しており、物語をもった小説の文章をひとりで語るという今回のマームとジプシーの公演においては過去と現在、そして未来をその場に…

悪の法則 / 銀河 / 暗殺の森 / 忘れられた人々

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男だ、女だとうだうだと言っている男たち。女たちは出てこず。 キャメロン・ディアス(マルキナ)とペネロペ・クルス(ローラ)、女豹と平凡な美人セレブ妻はプールサイドで話し合い、ダイヤモンドの価値について意見を交わす。キャメロンは資本主義的価値を…

ルイ・マル『死刑台のエレベーター』

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鉛筆削りじゃやっぱりダメだった。知らない誰かが無鉄砲に撃った銃にご破算にされる。 エレベーターは上昇していたはずなのに電源が復活して物語の下降線とともに落下する。 男ジュリアン・タベルニエ(モーリス・ロネ)、元落下傘兵はもはや落下するときも…

ブギー・ナイツ / パーティー・ガール(暗黒街の女)

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青春ー栄光ー没落 レイジング・ブル 青春時代の細切れの栄光の日々は欲しいものを買ってパーティーを開いてホワイトラインを鼻の中に入れていくお決まりのものだが、終盤に向けての材料が散りばめてある。ホフマン先生の使い方が酷い。監督のキャラが薄い。…

熊切和嘉『夏の終り』

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満島ひかりの細く長い指。特に長い。 かつて繋がれた手とまどろみのなか繋がれた手と解かれた手。 男は成瀬と同じくどうでもいい存在であり、それは俳優2人によってよく抑制されている。 かといって女が素晴らしいとか母性押し出しでもなく、女から見てもこ…

稲妻 / 乱れる / めし / 世界

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「キンタマのない」映画とはまたよく言いますね。 失恋してというか、女に出会って仲良くなって話していると意味がわからないところで怒りだし、意味がわからないところで優しくなり、サド=マゾを連想してしまうようなアメとムチっぷりを見せられ、困惑した…

パラダイス:愛 / パラダイス:神

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人のいいデブだっている。デブへの風当たりは夏の満員電車において激しさを増すが、悪気があって太っているわけではないし、身体のことをとやかく言うのは礼を失している。しかしながらほとんどの人が礼を失して人の身体について言葉を並べる。胸がでかい、…

女っ気なし / パラダイス:希望

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『女っ気なし』ではタイトルがタイトルだけに女っ気なしの優男に女がやってくる話で、実直で物知らずで優しくろくでなしのいくらでも形容詞がつけられそうな男が中心にいる。浜辺でちょこちょこ飛び跳ねながらこちらへ向ってくる男は「かわいい」のかもしれ…

穴 / 愛、アムール / 凶悪 / 地獄でなぜ悪い

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ガスパールは決して許されない。独善的で凡庸な、何の歓びもない裏切り。 ピエール瀧もリリー・フランキーも許されない。何をしたところで。誰にも。許しを請うことが許されない。また、誰も彼らを裁くことはできない。『凶悪』犯の足跡を追う記者は正義感に…

ハーモニー・コリン『スプリング・ブレイカーズ』 / テオ・アンゲロプロス『エレニの帰郷』

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スプリング・ブレイク…フォーエバー ヤク中、ガンマニアのヤンキーの朦朧とした頭で呟くフレーズは、女学生たちの登場によって生まれ、繰り返される。ブリトニーの切な系ポップソングをピアノ弾き語り合唱し、隙だらけの強奪を繰り返す。 女の子たちのキャラ…

キム・ギドク『嘆きのピエタ』

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未だに引きずられる資本主義。 鶏、鰻、兎。動物たちが登場し、殺される。金を中心に、そこに愛を絡め、恐怖、憎悪、不安、歓びといった感情を挿入する。 鰻がのろのろと階段を下りていくさまは足を引きずる男へ。逃げた兎が車に轢かれ、鶏と鰻がナイフで裂…

デヴィッド・O・ラッセル『アメリカン・ハッスル』

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誰かのことを好きになってそれが本物かどうか知りたかったら相手の好きな音楽を知ればいい。それで真偽がわかる。音楽を聴かない奴はやめといたほうが身のため。 リアルと嘘、真実と偽物、相変わらずの二項対立だが、フィクションに現実から圧力がかけ始めら…

明日に向かって撃て! / さすらいの二人 / ニューヨーク、恋人たちの二日間

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偽の軽さ と 疲れ切った男 と 魂。 写真で振り返る出来事の多いこと… 写真で始まり写真で終わる、写真に挟まれた回想の物語。三人でコニー・アイランドへ。ルーリードの『Coney Island Baby』… 人を殺したことがない盗賊団のボスと泳げない早撃ちのガンマン…

グラウベル・ローシャ『狂乱の大地』『アントニオ・ダス・モルテス』

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かつて作られた映画の中で、最も偉大な「騒乱」の映画がある。騒乱はもはや意識化から生起するのではなく、すべてを、民衆とその支配者たち、そしてカメラそのものを失神状態にし、すべてを逸脱させ、様々な暴力を交通させると同時に、私的な事柄を政治的な…

ビフォア・ミッドナイト / 浮雲

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腐れ縁 と 腐れ縁。 中年をむかえたイーサン・ホークとジュリー・デルピー。ロマンを語った小説家はいまだ妄想をしつづけ、環境保護活動家は家事との両立を計る。延々とつづく議論と会話。元妻との間にできた息子への親馬鹿、元妻批判、過去の火種、家事と仕…

哀しみのトリスターナ / ウォールデン

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失われた脚 と ホーム・ムービー。 ブニュエル、カトリーヌ・ドヌーヴ。古典。トリスターナのピアノのペダルを踏む失われた右脚とミア・ワシコウスカの連弾によって震える脚(こればっかり) 病による変貌。化粧がいくらか濃くなり、背筋が伸び、口調がきつ…

女と男のいる舗道 / オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ

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悲劇 と カップル。 ゴダールの文学青年時代。ブリス・パランの素晴らしい講義と、アンナ・カリーナの可愛らしいダンスと憂い顔と涙と、男たちの身勝手さによる悲劇の幕切れにおける死で、物語としての悲劇にお別れを告げるゴダール。 次の『はなればなれに…

地図と領土 / シナのルーレット / メーヌ・オセアン / Gretchen Parlato

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ユーモアのない生 と 中流の「幸せ」 と 音楽。 ウェルベックの『素粒子』を読んで、この作家の本はもう必要ないと思った記憶がある。新聞やネットなどでよく見られる社会問題に対する悲観的一般論が散らばっているだけで、フランスなら『地図と領土』では故…

教授とわたし、そして映画 / 引き裂かれた女 / かぐや姫の物語

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大人であるらしい男 と フーガ と 絵。男たちは子どもの身振りを持ったまま、だんだんと深化していく。女たちはいまだ謎のまま。追い求める男女、別れに際して化け物に変わる女、ストーカーまがいの男、感傷的でどうしようもない男、強い女。だらしないが、…

欲望の翼 / ビフォア・サンセット / V. / リヴァイアサン

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ポリリズムのない退屈な物語 と 女の中にいる男 と 海。 香港ーフィリピンのふつうの物語『欲望の翼』。遊び人とそれに釣られる女たちと真面目な労働者の戯れ。何に精を出すこともなく、女とのんべんだらりと過ごし、求められれば捨て、1人で煙草をふかし、…

ムード・インディゴ  うたかたの日々/ 時計じかけのオレンジ / 桐島、部活やめるってよ

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完璧に近い物語 と 恋愛よさようなら と ソフィア・コッポラの不変性。ライティ・ライト。崩れた、楽しい言葉をつかって外国人として反抗するアレックス。キッチュな風景に取り囲まれ、イエーース?と自分の答えを押しつける教師とボロ人形同然の両親からま…