悪役のメンソール と レクイエム(ハードエイト / Telephone)

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1996年。HARD EIGHT。PTAの処女作。

上から俯瞰されるコーヒーカップと煙草(セイラム)。どうしようもない悪役のサミュエル・ジャクソンがわざわざメンソールは?と聞いていたので、警備員で内か外かをひどく気にしていてさらに金持ちばかり相手にしていることによるルサンチマンたっぷりの男はメンソールを吸うのか、と暗澹たる気持ちになる。ピンチョンの最新作、クローネンバーグに映画化された《LAヴァイス》の主人公《ドク》はKOOLを吸っていた。メンソールの扱いがよくわからない。

マグノリア》で死にかけのクイズ番組司会者を演じることになるフィリップ・ベイカー・ホールシドニー)と《ブギーナイツ》で爆竹に恐れ戦き、今回はブックサイズのマッチがポケットの中で自然発火して飛び上がる、喜劇俳優ジョン・ライリー(ジョン)、そしてグウィネス・パルトロー(クレメンタイン)がウエイトレス兼売春婦役。

冒頭からシドニーがジョンへ提案するうさんくさい善の施しに疑いは募るが、二人がひとまず握手し、立ち上がる場面で流れるピアノのタッタッタッタというウェス・アンダーソンのリズミカルな説明的展開で使われていそうな音楽は明るい。

二年後に飛んでも同じ場にその二人がいることでそれが騙しではないことがわかり、しかしいったいなぜこの男と《友人はいいもんだ》なんていいながらいっしょにいるのか、わからず、事件が起き、別れ、最初から悪=下品だったサミュエル・ジャクソンが実弾入りの銃をかまえる前にその理由がわかる。

おしゃべり好きのサミュエルが自分のこともシドニーの過去も説明してくれ、いくらその過去が重く、隠される必要があるにしてもそれを脅しのネタにして金を巻き上げるのは、クソのひとかけら。ということで夜中、ハンフリー・ボガートばりのハードボイルドを体現するシドニーアキ・カウリスマキのように静かな切り替えで銃を選び、サミュエルは自分の銃で死ぬことになる。

シドニー涙袋グウィネス・パルトローの胸、ジョン・ライリーの凡人顔、泣き顔。

それにスムースな移動撮影、邪魔にならない音楽、省略とユーモアが効いた物語。

電話のやりとり、《実の子どものように愛している》よりも窓にハートマークを書いていたグウィネス・パルトローのほうがぐっとくる。静かなカフェの終わり。

 

 
Erykah Badu (TELEPHONE) New Amerykah Part 1 ...

 

エリカ・バドゥの《New America part1》の《Telephone》は血栓性血小板減少紫斑病の進行によって32歳の若さで亡くなったJ Dilla に捧げられ、真夜中にふさわしい点描、籠ったビート、丁寧な歌が絡む。悲しすぎず、甘すぎず。