ルイ・マル『死刑台のエレベーター』
鉛筆削りじゃやっぱりダメだった。知らない誰かが無鉄砲に撃った銃にご破算にされる。
エレベーターは上昇していたはずなのに電源が復活して物語の下降線とともに落下する。
男ジュリアン・タベルニエ(モーリス・ロネ)、元落下傘兵はもはや落下するときも静止する。
鉤針つきのロープはいつのまにか地上に落下し、少女が持って帰り、疲れ切ったモーリス・ロネはなんのためにそのエレベーターに乗ったのかも忘れてふらふらと外へ出て行く。
ジャンヌ・モローは冒頭から涙を流し、不安定真っ只中、不倫相手のモーリス・ロネの名を隠す必要さえ忘れて口に出し、彷徨する。
無軌道、無鉄砲、無思考の若者が捕まって、ああやっとこいつの顔を見なくて済むと思った途端に誰が撮ったかわからない写真のせいで一巻の終わり。
フロランス・カララ(ジャンヌ・モロー)もモーリス・ロネも疲れ切っていてまともに思考することができない。計画通りにいかなくなったせいで、次の展開を考えねばならなかったが、エレベーターが停まっている間に《子ども》のバカップルがすべてをぶちこわしていく。
完璧だったはずの計画もバカップルの無計画もわずかな過失とそれつづく外部への誤った対応によって同じ結末を辿る。マイルスの音楽は冒頭と結末において同テーマで演奏されるのはフロランスとジュリアンは最初から最後まで出会えず、恒常状態がつづくから。あと10年。
ゴダール《右側に気をつけろ》に出てくる愛をささやき絶望し合うカップルと同じく、愛を語り、悲しげな顔を浮かべ、独り言を呟くジャンヌ・モロー。モーリス・ロネは何も語れない。
破綻した物語は断続的に不安定なカップルに調和し、常に間違いばかり引き起こすバカップルたちによって安定的に運ばれていく。不安定なカップルには最後まで破綻した断片が突きつけられ、不条理だ!と叫んでもよさそうだが、もはや抵抗する力もなく、ディゾーン… あと10年… と悲しみを受け入れるところをみると、この2人の愛は大したことがないこともわかり、最初から最後までこの2人に移入させない気持ちもわかる。
稀有な傑作。