稲妻 / 乱れる / めし / 世界

キンタマのない」映画とはまたよく言いますね。

失恋してというか、女に出会って仲良くなって話していると意味がわからないところで怒りだし、意味がわからないところで優しくなり、サド=マゾを連想してしまうようなアメとムチっぷりを見せられ、困惑したことがある人は見ておいたほうがいい成瀬巳喜男

 

《乱れる》高峰秀子=清子。乱れに乱れた義姉の心は部屋と部屋のあいだを行き来し、光のなかに立ち出でたかと思うと影の下でうつむき、25歳の義弟と36歳の義姉の禁じられた恋愛に心を砕く。《稲妻》では義姉2人、義兄、義姉の夫、不倫相手、《腐った》人たちに囲まれてほとほと嫌気がさした清子が家を出るが、唯一、穏やかなお母さんとは話をする。母はばたばたしているなか団扇をあおぎ、「次々といろいろなことが起こるねえ」と緩衝材になるような一言を言ってくれる。

新しい家の家主が「一目見ていい人だとわかった」と言うのは出かけどきに清子が痩せたロボットのような子猫を畳へ放り投げればわかる。

稲妻のための二階の部屋と開けた空を得た清子は自家とは対照的に仲睦まじい兄妹を見下ろす。大きな本棚にたくさんの本、知を求める者の夢を語る清子が俗も俗な義姉二人の男の取り合い、酒に溺れる敗北者たちから距離をとるのは当然の帰結。

まわりが勝手に閉鎖していく世界から清子は抜け出し、稲妻を見て、母と仲直りする。母と清子が夜道を並んで歩き、同じ方向を見つめるショットがいい。

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まわりが不完全に自足した世界をつくる《世界公園》で働く男と女は《シュトロツェク》のダンシングアニマルのように毎日同じ風景を見て同じことをする時間をだらだらとやり過ごし、民族的遺伝だと言うがある男は嫉妬に狂い、女にどこにいたか尋ねまくる。

 

東京物語》なるチャプターでその女はその束縛男と結婚するという閉鎖空間の自足が見られ、何度も何度も現れるトランシーバーのような携帯電話が結婚式の祝いの席で浮気を暴露する。《銃、セックス、携帯電話》というコントロール手段でこの映画ではセックスと携帯電話、とりわけ携帯電話の使用が目立ち、居酒屋で飲んでいるのにスマートフォンにばっかり構っていて話をするときにも画面から目を離さず、いつのまにか状況をツイートしているやつと居合わせてしまったときのようなシラけを感じさせる。

時代を感じさせるアニメの挿入はナレーションの代わりで、まぁなんともない。ないほうがいい。

北京語?広東語?を話せないロシア人はロシア語を外国語であるかのように話し、仲良くなっているはずなのによそよそしく、《こんなところで会いたくなかった》再会では勝手に取り乱しながらも矢継ぎ早にシナリオどおりの台詞を吐いて消え去る。反応があまりにも早すぎて予知能力がある人みたいでおもしろかった。

 

工事現場で働いていて重機の下敷きになって死んだ男が死ぬ間際に残した言葉が借金リストだったら親族は涙を流すだろう。どこにも行けない人々は悲しいのか。人間はどこかに行きたがるものなのか。《パーマネント・バケーション》で「おれはひとところにはいられないタチなんだ」と言って完璧だと思っている紋切り型のダサいポーズを決めて船に乗る男のように?

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ボードレールの見解。世界人、それは《わが家の外にいながら、どこにいてもわが家の気持ちでいること。世界を見ながら、世界の中心にいながら世界に対して身を隠したままでいること》

世界は一般にいうワールドワイドな意味ではなく、ミクロコスモス、外であろう。

一日あれば世界が見られます!と標榜する世界公園はギャグであり、それを求める大衆は金を払っているならばバカにされている。あるいはそれを使って<ローマの休日>ごっこをするのは楽しいかもしれない。そこに住まうということは問題であって、抜け出す方法としては偽造パスポートか、結婚か。男と女は利害関係を結び、男はセックスを求め、女は結婚を求める。それで成り立つ地方のミクロコスモスは完結している。完。

 Perfumeのノッチに似てなくもない原節子が主演の《めし》では原節子のすぐに怒り顔に変わりそうな微笑で《隣に主人がいる。それを毎日世話していく日常、それが女の幸せなのだわ》みたいなことが言われる。それはもう、どうせまたいっしょになるのだろうなという観者のうちにも生まれでていることであり、違うのはそれが幸せかどうかという部分である。高峰秀子が諦め口調で笑いながらそう言っていればうなずけるが、原節子だとそうもいかない。原節子は常に美しい美しいと言われ、それに合わせた微笑を浮かべ、影では暗い顔で猫をなでなでしているからか。

 

 

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