エドワード・ヤン「カップルズ」

これからというときに亡くなってしまった素晴らしい映画作家エドワード・ヤンの1996年の作品。若者の群像劇ーー白のTシャツにジーパンという北野武ソナチネを思わせるファッションをした男たち、簡素で美人のフランス女マルト、けばいブルジョワおばさん、底の浅いイギリス人マーカス、隠居した親父、その愛人(教師)。

男娼ホンコン、リーダーレッドフィッシュ、新人ルンルン、リトルブッダトゥースペイストの四人のチームが社会の大人たちと絡んで一悶着。

若さゆえかどんづまりの物悲しさというより板挟みの泣きと笑いが同居している。ホンコンは三人の醜悪なおばさんに迫られてシーフードをのどに詰まらせ、嗚咽する。レッドフィッシュは楯突きながらも尊敬していた親父が愛人と心中したせいで殺人を犯す。ルンルンはマルトに不愉快な思いをさせたチームを抜ける。トゥースペイストはまた同じことをする。

ヤンキーの若者が中心なだけあって周りの大人たちは欲望をむき出しにしたり隠したり、駆け引きを行ない、醜い。寝返りを繰り返すマーカスがマルトに去られる商店街のシーンは素晴らしいカメラの引き!誰にも(観客にさえ)相手にされないマーカスはあの距離が妥当である。ホンコンが寝ることになるピンクのおばさんは低能だが、嫌なことを強制することはできる。レッドフィッシュの親父は資本主義の泥沼から抜け出し、息子と話をするがなかなか理解されない。当然と言えば当然だが、残念な結果に終わることは目に見えていた。

ルンルンとマルトはそのなかでも純粋無垢であり、この二人にだけ恋愛が始まる。マルトを囲った部屋のなかで「ボンニュイ」と言って手をつなぐシーン、ラスト、夜の淡い青が沁み渡る街中での再会ーキスシーンの美しさは二人のあいだそのもの。そこに向かうまでのマルトの失踪、ルンルンの気づきも面白い。トゥースペイストに仲間になれと頼まれているのに怒鳴られることで、マルトが期待を裏切る罵声を浴びせた警察所の場面が甦り、自分を求めているのかもしれないという淡い期待を抱き、ラストへ向かう。その期待と動きは見事に合わさり、私もそこに入り込み、ついていく。そんな映画はなかなか存在しない。

純粋無垢な青年が大人の波に揉まれて成長し、最後は一人残って何かを成す、といった典型ではあるが、その終盤に向って瓦解し、独りで何かをして何かが起こりそうな場面があるだけで十分であろう。


カップルズ [DVD]

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