2012→2013→2016 WATTISMUSICFOR

映画/音楽/文学/美術

クロード・ミレール 「ある秘密」 フランス映画未公開傑作選より



残念ながらミレールの他の作品は観たことがなかったが、「引き裂かれた女」のリュディビーヌ・サニエ(アンナ)が出ているということで観た。

三つの年代。戦中、戦後、現在(モノクロ)で中心となる夫妻の子どもフランソワ(マチュー・アマルリック)の回想で話は進められる。
複雑な家庭の流れを描いていくため、要約して書き記すのは難しい。

第二次大戦におけるナチのユダヤ人迫害による家庭の崩壊。差別による諍い、その中での生活、決定的な視線。語りは最小限に抑えられ、よく観ていないとすぐにストーリーに追いつけなくなる。

父親マキシムの可愛い妻アンナが隣にいながらにしてタニア(セシル・ドゥ・フランス)に向ける視線の気色悪さ。タニアは一旦断りを入れておきながら、夫の死に耐えられなかったのか結局マキシムに身を任せてしまう。アンナの虚ろな表情を見てしまった者にとって二人の情事は耐え難い。褐色の艶のある肌をした美しいタニアがベッドのうえに自ら身体を投げ出してマキシムを求める場面はおぞましささえあった。その視線を辿る笑顔のアンナとルイーズの目、背けは素晴らしい動きではあったが、あからさまであった。マキシムのあからさまな視線を意識しての演出なのかもしれないが。アンナ、タニアの夫の死後では二人が結ばれることももはや許されてしまうのかもしれないが、親戚の女が言うように認め難い。個人的にマキシムのタニアへの視線は近年稀にみる不快感を伴った。

マキシムの気色悪さとは対照的にタニアの飛び込み、泳ぎやアンナの踊り、見上げる目、笑顔はこのうえなく美しい。差別や戦争、浮気がその美しさを翳らせ、陰鬱な表情を作り出し、別の、負の美と言うべきものを生み出す。タニアの健康的な身体が示すように夫を失った悲しみはマキシムの身体によって購われる。内面化されることなく身体だけ。アンナは差別も浮気もひとりで抱え込み、自ら死のほうへ歩みを進める。夫への復讐か、罪のない子どもシモンも一緒に連れて行かれてしまい、いびつな家庭が生まれることになる。そこで生まれるのがフランソワであり、現在のフランソワから彼らへの恨みつらみは語られず、すでに受け入れつつある様が映される。

フランス映画でよくあるのが、このドロドロになってしまってもみな言いたいことを押さえ込んだまま関係を保っていく、という貴族制を思わせる形であってなぜそこまでして一緒にいるのかわからなくなる。本作だとマキシムとタニアの周りにいる人々だが、生まれたてのフランソワを囲んで微妙な笑顔を交わすあたりはかなり気持ち悪い。くだらない秘密を秘密として保ちつづけ、それがお手伝い兼友人のルイーズによってフランソワに告げられる。スポコン親父のマキシムの知性のなさはそのままフランソワにぶつけられ、現在のボケ老人の姿は何の同情ももたらさない。知性の足りない肉感に頼り切った中年時代の過ちを今更振り返ったところでどうにもならないことはわかりきっている。

フランソワはそんな父に対してさほど嫌悪感を示さず、まるでまったく関係のない他人の物語であるかのように、後世に残すべき昔話のようにみなし、子どもに伝えようと決心して映画は終わる。

ナチのユダヤ人迫害が一家の泥沼恋模様にのせられるわけだが、なぜ今、このテーマなのだろうか。差別が今でもあることは周知の事実である。しかし、平和平和と叫ばれる現代において差別をするものが差別されるという悲劇的な差別が現れている。この映画においても反ユダヤ主義のルイーズは半ば蔑まれ、差別的な発言も軽くあしらわれる。しかし、戦争の進行とともにアンナがユダヤ人である事実が重みを増し、周りの人々がすべて反ユダヤ主義へ加担してしまう。目に見えぬ小さな差別が社会の枠組みの変化により、大きな差別へと発展してしまう。根絶することは難しい、何度も繰り返し言われる紋切り型はまあ間違いない。差別は情報によって行なわれる。情報だけを鵜呑みにしてその人、民族、人種をそのまま情報に包括させてしまう。知の不足は現代において差別とともに根強く残っている。そして教育。問題は連鎖して解決など望めない。私たちは包み隠さず会話をしなければならない。培った知を総動員して会話を交わす。社会に頼り切るのは危険だ。

マキシムとタニアの家庭は秘密を抱えたまま二人の死によって終わり、残されたフランソワが秘密を語っていくことになる。秘密はいつでも愚かで、恥ずべきものとして存在しつづけ、語られるのを待っている。

サニエ嬢は「引き裂かれた女」といい悲劇のヒロインとなることが多い。あのくっきりとした二重瞼が大きな垂れ目とともに哀しげに沈むのは観てるだけでも辛い。屈託もなく笑っていた姿は徐々に色をなくし(化粧とともに)、鋭い張り手まで飛んでしまう。あんな張り手をくらってしまえばトラウマ必至である。逆にセシルドゥフランスは健康!美!を身体全体でアピールし、夫が死んでも優雅に川を泳ぎ回る残酷な動きを見せる。マキシムのようなスポコン親父にはそちらのほうがよかったのだろうが、土曜日に映画を観ている自分にとっては何とも理解し難い選択であった。男は哀しげな女の顔に魅かれるというくだらない紋切り型に嵌っているだけなんだろうけど。


映画の國名作選 V フランス映画未公開傑作選

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