ヴァージニア・ウルフなんか恐くない

雌が強い世界は平和か。

いがみあい、戯れあう夫婦二人にとって失われたもの、できたかもしれない子ども。不妊。失われた、子どもとの時間。それを二人のなかで厳密なルールのもの、作り出す。禁じられた偶像創造。

そのルールは他者に子どもの存在を語らないこと。嘘と夢と現実の境界があやふやな二人の言うことだから信用はできないが、生み出された息子の年齢が16歳であることから16年間、二人は秘密を保持してきたのだろう。それを妻マーサ(エリザベス・テイラー)が、パーティーで知り合った新婚夫婦の奥さんハニーにベッドルームで教えてしまったことを知ったジョージ(リチャード・バートン)は《信じられない》というような茫然とした顔を見せ、怒りを滲ませる。しかし、ここでゲームを終わらせることはできない。それは嘘なんだ、と告白してしまうことはゲームの終わり、息子の死をもたらしてしまう。

そこでこれまでやってきたとおり、架空の息子の性格やら状況やら外見やらを話し、互いに罪を着せあう。息子の目の色はグリーン、いやブルー、いやグリーン、いやブルー、としつこく言い争われる。それは白黒のため確認できないが、夫妻の目の色に対応しているのだろう。その家に息子の存在していた痕跡がまったくないことと、ジョージの反応、はっきりしない息子の状況からみて、この夫妻に《本当は息子なんて存在しない》という判断が観客、そして新婚夫婦の夫ニックになされる。

それでもさすがにそこは突っ込まれず、庭でジョージとニックが話しているときにバラしかけるが、それでもまだ保ち、酒場で限界が訪れる。マーサによるジョージへの中傷、ジョージによるニックとハニーの秘密の暴露。とことん卑劣。特にマーサから受けた中傷を八つ当たりの形でニックとハニーに向けるジョージ。そこでマーサから宣戦布告がなされ、ニックとマーサが姦通。外の窓からそれを見つめるジョージはドア横に置かれたベル、鐘の音が鳴ったことによってある最終作戦を思いつき、酔いつぶれたハニーを利用しつつことを進める。もちろんそれはごまかしごまかしやってきた息子の死を告げること。

これしかない。二人の関係、二人のあいだにある共通の秘密を衆目に曝すこと。息子のことをマーサに話させ、ジョージはその死を告げる。マーサは当然、取り乱し、「なんで勝手に殺すのよ」と二人で培ってきたものを台無しにされたことに憤り、涙を流す。そこでようやくニックが悟り、新婚夫妻は解放される。残された二人は二人の現実に戻る。ゲームは終わり。

子どもがいない、という現実を慰めるためのゲーム。二人に共通のものをつくりだすためのゲーム。その秘密は外に出されれば無意味なものになってしまう。釈明に次ぐ釈明。嘘の塗り固め。それは二人のなかではリアルだったかもしれないが、外に出ればその幻影は消える。ゲームのやり過ぎは身体に毒、適当なところで終わらせなければ。

他人を巻き込んでの誹謗中傷の嵐は醜く、迷惑極まりないが、二人のなかだけで行われているかぎり、それは別に批難されるべきことではないし、そういうふうにしかできないのだから。言い合いは笑えるし、皮肉もユーモアもあって、なかなか楽しそう。ジョージはわからないが、マーサはそれで幸せなのだ。もっと別のやり方があることは間違いないが。

 

楽な服に着替えてからのマーサ登場のシーンはもっと綺麗にできたはずでは? エリザベス・テイラーの見せ場なのに。ニックとのダンスシーンもリズムがずれまくってるし、胸を前後に揺らしたり、腰と腰をくっつけて円形にまわしたりしてて、官能も美もない。映画なのに。

 

バージニア・ウルフなんかこわくない [DVD]