2012→2013→2016 WATTISMUSICFOR

映画/音楽/文学/美術

カラックス『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』

83年。

セーヌのほとり、ブレッソン《白夜》でも中心にあった遊覧船のライト、ロマン主義者の孤独。

パーティー見物人アレックスからミレーユへの、ペソアのような痛ましい語り《ぼくは彼女に会う前から彼女を愛撫していた》… 

宇宙飛行士、星。いまは宇宙なんて言ってる場合じゃないが、恋愛もまた… 

親友トマに奪われたフロランスが白いシーツに身をまとって出てくるのを目の前で見る。せいぜい手紙とレコードをあげるだけ… 

壁に書かれた自分史。初めてのキス、セックス、最後の万引き… 

パーティー中の家の浴室でセシルカットを試みるミレーユ、コーヒーカップの割れ目からミルクを飲むアレックス、夜の語らい… 

レコード、デヴィッド・ボウイゲンズブール… 

路面電車の窓で引き裂かれる二人… 

カフェ、橋のうえでキスをするカップルに投げ銭、ポータブルレコードプレーヤー? 自分の知っている音楽、それも好きな音楽をヘッドホンで聞いて歩いているかぎり、どんなに新しい風景も紋切り型に見える。 

ピンボールで時間つぶししてたら終電を逃す。なんという間抜け。

悲劇、苦悩を求めるアレックスは本当に悲劇を引き起こす。求められる苦悩は苦悩ではなく、自慰のための自傷であり、それが他人といっしょになって求められると悲劇は起きる。ロブ・グリエの《悲劇を求め、そのなかで名を呼び続けることで不在者を存在たらしめるわたし》

カラックスはこれから楽しみはじめる。

3年後の86年『汚れた血』はハリウッドのハードボイルドサスペンスをパロった悲劇で、痛さではなく、軽さがある。

成長したのかアレックス。無口だった幼少期、本を読み漁って早熟となってハードボイルドな台詞を吐きまくる。かわいいリーズ(ジュリー・デルピー!)には気取った別れを演出して悲しませ、リーズから《とんでもないこと》が起きたと電話があり、《なにがあった!》と問いただすと浮気だった(STBOに感染するから重大といえば重大)なんてときも男前に《なんだ浮気か、脅かしやがって、そんなの全然気にしないよ》と言ったかと思うとそれが親友のトマだとわかって落胆する、という若さゆえの浮き沈みの激しさを見せる。

死んだ親父のかつての仲間マルク(ミシェル・ピッコリ)と、『ボーイ・ミーツ・ガール』では星を見つめていた男と組んで、愛のないセックスをすると感染するSTBOのワクチンを盗むことになったアレックスは路面電車で出会った白い服を着た女を追いかけ、マルクの家に着くとその女がいる、という夢の展開になってリーズと別れてすぐなのに、恋に落ちる。その相手がアンナ(ジュリエット・ビノシュ)。キアロスタミの『トスカーナの贋作』でこれでもかと口紅を塗りたくっていたジュリエット・ビノシュが可憐に笑い、遊び、おどけ、唇をひん曲げて前髪を吹き上げる。

ジュリエット・ビノシュジュリー・デルピーのために。ドニ・ラヴァンは変わらない。

実際には、白い服の女はアンナではなく別人だったというオチもつけられ、外に翻弄されるアレックスが全面に出される。

《おしゃべり》という自虐的なあだ名をアレックスに与えたカラックスはここでもまだしゃべりまくる。『ボーイ・ミーツ・ガール』のパーティー会場のキッチンでの二人のおしゃべりというよりアレックスのおしゃべりは健在だが、ここではアンナもよくしゃべる。死に怯えるマルコへの愛。部屋の中というのも相まって完全に(成就されない)二人の世界ができあがる。悲劇だから。

最後に銃で撃たれ、血を流していることに気づかれ、憐れみの目を向けられるあたりは見ていられない。それがハリウッド・システム。見ていられないものを見せることによって、痛々しさを増し、涙を流させる。今作の大まかな枠組みの借用だけではそれはないが、『ホーリー・モーターズ』で全開となったカラックスのシニシズムの萌芽がある。

今作はアレックスの悲しき自己ではなく、ジュリエット・ビノシュジュリー・デルピーのかわいさ、アレックスを見守る目、周囲が中心にあり、デビッド・ボウイの《Modern Love》に合わせて疾走し《疾走する愛って知ってる》なんて言っちゃうのはご愛嬌で、それを軽く受け流すアンナ、そして盲目的にマルコを想うアンナ、木陰で眠るリーズがいるだけでよい。この二作では両者はバラバラであり、それが二人になって『ポンヌフの恋人』、引き裂かれる『ポーラX』へ…

 

 

『ムーンライズ・キングダム』『フォーエヴァー・モーツァルト』『ホーリー・モーターズ』『ザ・マスター』 - 2012→2013→ WATTISMUSICFOR

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