2012→2013→2016 WATTISMUSICFOR

映画/音楽/文学/美術

重荷を下ろそうではないか

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2014/7/8

そのベンチははなはだうまく置かれていた、土と固くなった石のかけらの小山を背にしていたので、すわると背中がおおわれた。脇腹も、部分的には、尊く、しかも枯れてさえいる2本の木がベンチの両側をかこっていて、かくしてくれた。おそらく、この二本の木が、その葉すべてを波立たせていたある日、誰かが、ベンチを置くことを思いついたのだろう。前には、数メートルへだてて、運河が流れていた、もし、運河というものが流れるとしたらだが、これはわたしにはなんとも言えない、そんなわけで、そっちのほうからも不意をつかれる心配はなかった。それにもかかわらず、彼女はわたしの不意をついた。わたしは横になっていた。気持ちのよい天気で、ちょうどわたしの頭の上で互いにささえ合っている二本の木の裸の枝を通して、それに、ちぎれちぎれの雲を通して、わたしは、星空の一角が行ったり来たりしているのを見つめていた。ちょっとつめてくださいな、と彼女は言った。わたしの反応はそこを立ち去ることだった、しかし、疲れていたのと、ほかに行き場所がわからなかったので、その反応を続けるわけにいかなかった。そこで、わたしは両足をいくらか引きよせ、彼女はすわった。わたしたちの間では、その晩は、なにも起こらず、彼女はやがて、わたしには言葉をかけずに立ち去った。ただ自分のためのように、この国の古い歌をいくつか、ただし幸いなことに歌詞抜きで歌った。その歌い方が奇妙に断片的で、ある歌から別の歌へ飛ぶかと思うと、飛んだほうの歌がまだ終わらないうちに、途中でやめた元の歌に戻った。彼女の声は調子外れだったが、心地よかった。すぐ飽きて、けっして最後まで終わることのない魂が感じられた。      

……サミュエル・ベケット『初恋』p18-19

 

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