ジャ・ジャンクー『青の稲妻』

2004年。ジャ・ジャンクー

2001年、中国、山東省。中国WTO加盟、天輪功狂信者が天安門広場で焼身自殺、2008年北京オリンピック決定、工場労働者の社員宿舎爆破事件、高速道路開通。

若者2人、無気力だらだらのビンビンとスカした痩せ男シャオジイはそれらの事件の影響を少なからず受け、シャオジイはバイクで高速道路を走り、オリンピック決定の瞬間には喜ぶまわりと対照的に静かに画面を見つめるだけ。

ビンビンにはお固いハイスクールガールフレンドのユェンユェンがいて、ビンビンが相手の家に行き、暗い部屋で横に並びテレビを見つめながら話すが手を握るだけでそれ以上は許されない。それでも優しいビンビンは勢いづいた彼女に何か言われ、「怒らないの?」と聞かれ、「お嬢様には怒らない」それでも悶々とするビンビンは風俗嬢のおばさんからマッサージを受けるが、彼女のことが頭をちらつくのか、中断させる。

シャオジイが惚れる胡散臭くて不味そうな「モンゴル王酒」の販売所で踊り子をするチャオチャオはやり手の金持ちヤグザ男チャオサンに実権を握られ、それに抗うこともなく、金のために働く。チャオチャオはこの男が酒場の個室で別の女といっしょにいたことに腹を立て、口を尖らせ、踊り子を見つめる男の肩に噛みつき、その肩に頭を預ける。言葉ではなく噛みつき。

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言い寄るシャオジイにむかってチャオチャオは「中絶したばかり」だと告げるが、シャオジイは「別にいい、麺のようにほぐしてやる」と答える。「麺のようにほぐす」、中絶、傷ついたヴァギナ、イメージ。チャオチャオは接吻を与える。その接触面は観客に見せず、一人車内に残されたシャオジイの口から漏れる煙で接吻がなされたことがわかる。

先生だったチャオサンと高校を辞め、駆け落ちし踊り子になって中絶までして客寄せパンダになって入院中でしくしくと涙を流す弱りきった父の入院費用を稼ぐチャオチャオは最初仕事もせずにふらふらしているシャオジイに取り合わないが、金が二人を繋ぎ、暴力的なチャオサンへの嫌気もあってシャオジイと接近し、ホテルに入る。

そこで荘子の「胡蝶の夢」「逍遥遊」の話をするが、シャオジイはどちらも知らない。理解はなく抱擁するだけ。「逍遥遊」、《無為自然》《何ものにも邪魔されず、拘束されない自由な境地》、チャオチャオがそれを求めているのはわかるが、肩にいれた蝶のタトゥー、夢の中で胡蝶となって舞うような場面は見せられない。チャオサンと結ばれた高校時代か。

兵役に応募したビンビンは「肝炎だから兵役はお預けだ、うつるから恋人には気をつけろ」と言われる。その後にユェンユェンに携帯電話をプレゼントとしてあげ、これでまた連絡取れるね、とやさしい言葉をもらっても「これからなんてない」とすげなく言い、「こっちにおいでよ」と言われても行かず、「キスして」と言われてもしない。うつるから。耐えに耐え、待ち望んでいた唇が目の前にあるのに肝炎のせいでキスができない。ユェンユェンは一人立ち上がり、自転車に乗り、ビンビンの前で止まり、弧を描いてまた止まり、外に出ていく。蝶。ビンビンはその夢の動きにのらず。いつのまにかチャオチャオと切れたシャオジイとともに爆破事件に触発されたのか、偽の爆弾をもって銀行強盗をくわだてる。ビンビンは引っ捕らえられ、取調室でかつてユェンユェンとユニゾンした「任逍遥」を独唱。

一人、ビンビンを残して逃げたシャオジイは稲妻が光るなか、バイクを走らせ、使えなくなったバイクを捨て、ヒッチハイク

 無為、やることのない時間をやり過ごすための煙草と女。退屈をしのぐことと青春。

 

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