タチ『ぼくの伯父さんの休暇』

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「プレイタイム」「ぼくの伯父さん」もいいが、個人的にいちばん好きなのは「ぼくの伯父さんの休暇」

大がかりな装置、成金趣味の家もなく、こじんまりとしたバカンス先の海辺のホテルというより旅館のような小さなホテルで、例によってごにょごにょと何を話しているのかわからないタチがバカンスを楽しむ。多くの男たちの視線を集める女の子が登場し、別のホテルに入ってレコードをかけ、出窓を開いて外を眺める。そこでは波の音と子どもたちが遊び興じる声が混じりあい、かなりチルな画面になる。

何度も流れるテーマ音楽、登場人物よりも存在感のある主要登場音の海風、立て付けの悪いドア、存在しないピンポン玉、壊れて戦地の銃撃音を鳴らすエンジン、蓄音機、花火が、びっくりするぐらいの無音がつづくなかで鳴りだすと、エピソードが動き出す。

ユロ伯父さんは壊れたエンジンを直そうともせず、堂々と浜辺に乗りつける最初からノイズとして現れる。そのノイズはある人には嫌われ、ある人には好かれる。

支配人との挨拶、パイプをくわえたまま名前を言うことぐらいできそうなのにそもそも伝える意志がないのか、とにかく口べたで吃りなのか、まったく聞き取れない。バカンス客の相手にうんざりしているのか常にしかめっ面の支配人は神経症的でいまいちよくわからない反応を示し、もう一人のロビーボーイは不安気な顔で常にごにょごにょと何かしゃべっていて、どちらも変。

ユロ伯父さんはそんな二人にはお構いなく、みながくつろぐロビーラウンジの一角で大音量でレコードをかけはじめ、馬に嫌われてドタバタ劇を繰り広げ、仮想パーティーでは女の子と優雅にダンスをし、他のツーリストたちとのテニスではラケットを買った小売店のおばさんの他愛のないジェスチャーからうまれたまったくオリジナルなフォームで無敵のプレイヤーとなり、セイリングではボートが真っ二つに折れ、怪獣騒ぎを起こす。

偶然の産物ではなく、小さな要素の連鎖があって起きる小さなドラマがいたるところに散りばまめられ、どれひとつとして見逃せないのだが、あまりよく覚えていない。それでもいつかのバカンスのようにふと思い出される、微笑ましい記憶。

極めて印象的な、誤って点火された倉庫のなかの花火の美しさ。田舎にしかない暗闇のなか、夜の暗い海のうえで四方八方に飛び散る花火、統御されない自由な飛行。

ひとりでやってきたおばさん、退屈な妻に連れられて毎日毎日同じところをぐるぐると散歩するおじいさんは観客とともにユロ伯父さんに感謝する。

 

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