2012→2013→2016 WATTISMUSICFOR

映画/音楽/文学/美術

生きねば と 情報(風立ちぬ / CATCH-22 / フライデー / 寝ても覚めても / 吉田調書)

宮崎駿風立ちぬ』の宣伝文句「生きねば」。劇中では最後に死んだ菜穂子が夢に出てきて二郎に「生きて」と言う。なぜ生きるのか。自分は不幸だと思った瞬間に同時に派生する問いに親しい他人が介在し、反転する。しかし、その他人がいなかったら。

 

ジョーゼフ・ヘラー『キャッチ=22』のヨッサリアンは冒頭から生への執着を見せ、絶対に死にたくないと死の恐怖を語り、仮病と狂言を元手に何度も帰国を願い出る。一方、間抜けな風貌をしたオアは隊長ら上司への嘆願は行なわず、わざと不時着をして機をうかがう。奇跡ではなく用意周到な戦略にヨッサリアンは感動する。

 

スコリモフスキ『エッシェンシャル・キリング』のヴィンセント・ギャロは道行く女の母乳を吸ってまで生き延びようとする。ここでは逃げるという目的が死を遠ざける。

 

キャスト・アウェイ』のトム・ハンクスは一度首つりを試みるが、岸壁に打ちつけられて痛みのなか死んでいくのを嫌がって思いとどまり、バレーボールのウィルソンとともに生きのびる。

 

トゥルニエ『フライデー、あるいは太平洋の冥界』のロビンソンは無人島における孤独な生存の技法を見つけたかに見えた。しかし、フライデーの登場とともにその技法も崩れ、親しくなりかけていたフライデーを置いて文明世界へ戻っていく。柴崎友香の『寝ても覚めても』の主人公がした男の選択も少しこれに似ている。

 

ジャック・ベッケル『穴』の若く聡明なガスパールは追われる身を嫌がり仲間を裏切って一人だけ外に出る。

 

華岡青洲の妻』と母は夫のためと言いつつ、競って未完成の麻酔薬を飲みあい、母は衰弱死、妻は失明する。

 

死を補完する生。生を補完する死。「死にたくないだろう」「このまま何もせず手をこまねいていれば殺される」という脅しを有効にするために人種、性、遺伝特質を利用して敵を生みだし、「あなた方は生きねばならない」と呼びかけ、その「あなた方」に入れない者たちを排除する。《情報》(国籍、人種、宗教、民族、性別)による選別。その排除された者たち=敵は自分たちを攻撃してくる相手、死の脅威を浴びせてくる相手となる。

 

しかし、もしかすると生と死の結びつきは希薄化し、脅威に怯えるのではなく、ただ嫌悪しているだけなのかもしれない。死んだような生、死よりも耐え難い生は「どうせなら」「いっそのこと」というヤケクソに繋がり、恨みつらみ、憎悪、ルサンチマンの解消へと向う。自分たちの安穏な暮らしを守りたい、という大義名分のもとちょっとでも脅かす相手を排除する動きに出てスカッとしたいだけだとしたら悲惨極まりない。

 

デマゴーグに突き動かされる者たち。世の中には間違った情報がたくさんあることを知っているはずなのに、自分の嫌悪・疑念に合致したものがあると食いついてしまう。秘密保護法が施行されていたら確実に外に出なかったであろう吉田調書を極秘に入手した! おれたちもスノーデンになってやる! 朝日新聞が嬉々として毎日毎日その物語を紡いでいる。

吉田調書 - 特集・連載:朝日新聞デジタル

要は流行りのまとめ。そんな嘘の物語ではなく吉田調書全文を開示すればいい。 第一章からして嘘をつく。吉田所長は「違反」など一言も口にしておらず伝言ゲームのミスだったことを認め、さらにそのミスが結果として功を奏したとも言っているのに、朝日は所員たちが命令違反して逃げた、する。その神経を疑う。アルシーブの扱いは慎重に行なわなければならないのに、簡略化した物語に改変する。命令違反し、敵前逃亡した事実を政府が隠していたことを糾弾するために悪者扱いされる所員たち。

社説やらオピニオンやらそういった意思表示めいたものが絡んでくると新聞社というのは急に弱くなる。ポエムめいた言い回しでデモの効果を謳い、どこから借りてきたか知らんが上から目線の老人文体で若者に選挙に行くよう諭す。新聞の意見など聞くものではなく、反面教師として眺めるだけでいい。彼らの強みは記者クラブにしかない。

今回のように情報源が明示されていてそれを改変していれば間違いがわかるが、その情報そのものを改変しだしたら情報源としての新聞の価値もなくなる。そうなりませんように。

 

 

キャッチ=22 上 (ハヤカワ文庫 NV 133)

キャッチ=22 上 (ハヤカワ文庫 NV 133)

 

 

フライデーあるいは太平洋の冥界/黄金探索者 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-9)

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寝ても覚めても (河出文庫)

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