未亡人のフィールド・ハラー(ブルージャスミン)

ミッドナイト・イン・パリ』がレア・セドゥに救われたように『ブルージャスミン』もケイト・ブランシェット、女優に救われている。

女性映画という呼び方は意味がわからないが、女性が主人公の映画。

ウディ・アレンのsexual abuse問題、無知なセレブリティの蔓延、リーマン・ショックマリー・アントワネット、A Streetcar Named Desire

いたって凡庸な没落話。オチは詐欺仕事について無知であるはずの妻が浮気されて引き起こしたヒステリーの勢いで夫の罪を暴いてしまうというもの。

もちろん笑えるところはある。ジャスミンに言いよる歯科医が「吸引麻酔をいっしょに」と誘ってくる、呆れる子ども2人、「癲癇じゃない」、未亡人のフィールド・ハラー。

ウディ・アレンのデフォルメはありきたりでどこにでもいそうな、それも相当ステレオタイプな輩を選択してこけにする、という形をとる。《ああそういうやつ、いるいる》と共感、《痛いよねえ》と共同で貶める、一般的な性格の悪さ。

『アクトオブキリング』のプレマンを見ているときのような嫌悪感はもちろんないが、近しいものはあり、一文無しなのにブランド志向でセレブ癖が抜けず、浮気夫に従事していたくせに他人の男の趣味に口を出し…と会話を交わした瞬間に後悔するであろう女を見せられるのは辛い。それを救うのがケイト・ブランシェットで、いくら脇汗をかいてマスカラ落として泣き喚いても、高慢ちきでも、睨みが怖すぎてもケイト・ブランシェットなら見ることができる。彼女ほど美しくなければ見ることができないような女。

強面筋肉モリモリごつくて別れ際になるとへにゃへにゃになるヤンキー、奥様談義に影響されやすい奥様、ゴシップに目がないセレブ…

ヤンキー好きの妹とその夫のヤンキーがまだセレブだったジャスミンの家へ来て、遊びにいこうと誘っているところはそのまま《コーヒー&シガレッツ》だった。ケイト・ブランシェットの一人二役、アルフレッド・モリーナ… 蔑み、妬み、恨み合う人々と金と階級。

冒頭から最後まで何度か登場する思い出の音楽としての《ブルームーン》。浮気され、《彼女は本気なんだ》と意味をつかみたくもない言葉を吐く夫を、というよりあの頃の暮らしを象徴する曲として。おそらく夫のほうはそんなの覚えてもないのだろう。《アメリカン・ハッスル》で二人を留めた音楽としての効果はそこに望めない。濡れ髪のケイト・ブランシェットは最後に《ブルームーン》を思い出し、宙を見つめ、《もうめちゃくちゃ》という現実の認識に返って現実的な方向を見つめる。そちらは《東》のNYか。

 


Blue Moon - Billie Holiday - YouTube

 

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