ヒッチコック『泥棒成金』 / ルノワール『恋多き女』
《泥棒成金》(1955)時代を感じるタイトル、初のフランスロケ、ヒッチコック自身から《軽い話だからね》と言われてしまうような映画。
お高くとまったミステリ好きの凡庸なお嬢様フランセスをそのままそう見させてしまうグレース・ケリー。これ見よがしに背中のぱっくりあいた服を見せつけるが、あの黒いドレスの裾の両側についた森ガール御用達の木綿の白布はちぐはぐでお世辞にも美しくなく、それを《どうよ》と見せつけるようにゆっくりと歩いてこられても、ケーリー・グラント(ロビー)は他の用事があることも加味したうえで困惑顔を見せるしかない。
二人っきりの部屋の中でもまったくエロくないグレース・ケリーを見ていてもおもしろくない。面白いところは花火キス花火キスの露悪的すぎて笑えてしまう切り替えとフランス小娘を演じたブリジット・オーベールの肉ぐらい。
がっちりとした身体、広い肩幅をもつイングリット・バーグマン(エレナ)とルノワールの《恋多き女》(1956)ではイングリット・バーグマンが恋に落ちたような顔を見せないため、タイトルどおりの映画にはなっておらず、逆に《群衆》への愛を語り、名も知らぬ兵士たちを助けるために将軍に身を任せ、大義を果たした後はずっと言いよってきていた貴族男アンリに身を任せるよくわからない女を見せる。
酒場でアンリにキスを迫られたときは恋に落ちてはいるが未亡人である我が身に対する人目を気にして拒否しているようにも見えるし、ただ酔っぱらって顔が火照っているだけで、キスするほどの男ではないと思っているようにも見える。
そして軍の気球がドイツに落ちてしまうという事件で兵を解放するよう将軍に頼む役目をいつのまにか引き受けてキスを迫られている最中も事件名を語りつづける。
その最中はドタバタ劇。片足を突き出して立ち、両拳を顔の前に持ってきてぐるぐると回しながら敵につかみかかる、ゴダールも《右側に気をつけろ》の冒頭でやっていた動きはかわいい。まったく相手に危害を与える気がない。
スラップスティックはいつまでもつづく。
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