2012→2013→2016 WATTISMUSICFOR

映画/音楽/文学/美術

歌のある過去 と 無表情(四川のうた / 三姉妹)

絶えず流れに逆らいながら… 《グレート・ギャッツビー》の甘く苦い過去は誰にだって存在する。

四川省成都国営企業の機密工場《420工場》は郊外へ移転され、解体される。《四川のうた》でインタビューを受ける人々は過去を封印し、現在の生活を成り立たせる。ジャ・ジャンクーは2008年の現在から、忘れられた労働者の歴史を浮かび上がらせるために記録映画とフィクションのあいだを選択する。

14年ぶりに母とともに帰郷した女は祖父母との再開時にはなにに感動しているのかわからなかったが、別れの列車のなかで手を振る祖父母を見て号泣し、そこから自分の家族、3人家族で共働き、小学校6年生の息子がいるのに自分がリストラされ、どうしていけばいいかわからなかったが、とりあえず飯を食べ、内職のようなものでなんとかやっていっている、と時折涙を浮かべながら話す。

それまで沈黙し、さして重要ではないと烙印を押して仕舞ってきた過去を監督に自然に差し出す。その行為に複雑な過去から立ち上がる感情が絡んでいく。

点滴を右手で掲げて家から職場まで通う女は薄明の光がさす窓際で緊張状態にあった中国で生き別れた息子のことを話し、涙する。船の汽笛は警鐘。いつのまにかはぐれた息子を探す時間は与えられず、息子を残したまま出航せねばならなかったという悲劇。

副社長のおっさんは、《赤い疑惑》の山口百恵、バスケットボールとなかなか明るい。周恩来の死とガキ大将のよくわからない恩赦で《鳳凰18号》と我が身を守ることができたという話。

《世界》で鬱屈したダンサーを演じたシャオ・タオは最後に《労働者の子》として工場で男か女かわからない姿で働く姿を見て衝撃を受け、涙し、《母さんに24城のマンションを買ってやる》という決意を語る。

何度かポートレートあるいは集合写真を撮るように人を並べて静止させ、カメラを見つめさせる。写真となれば記録になり、記憶となる。並んで座る工場労働者の男二人、年配の男が若い男の肩に腕をかけ、手持ち無沙汰のその手で首筋を撫でてこそぐり、若い男が笑みを浮かべるところがいい。

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役者が登場しないドキュメンタリーとして制作された王兵の《三姉妹》では現代において忘れ去られた雲南省の一角に住む三姉妹を中心に据える。母は出奔、父は町に出稼ぎに出ており、三姉妹は伯母の仕事を手伝いながら暮らす。まだまだ幼い次女、三女の世話を見る長女は不平不満を表に出さず、言われた仕事をこなし、勉強の手をとめて外に出て行く。その長女が顔を綻ばせるのは、子どもらしい何も考えていないようなぼーっとした無表情ののちで、父が帰ってきたとき。

しかし、町の学費が高いこと、三人の世話を見る余裕がないことから長女だけがこの村に残ることになり、そのためか、次女は大声で泣く。本当に泣きたいのは長女のほうだろうが、長女は泣かない。

じゃがいも、《Lovely Diary》と背中にプリントされた汚れきったパーカー、虱だらけの服、汚い布団。新しいおもちゃみたいな靴が映える。豚、鶏、山羊、羊、犬。

三女の《何年も風呂に入ってないんだよ》という父への笑顔の報告は本当なのだろうか。父はそんな何年もここに三姉妹を置いていたのだろうか。長女は三男の服にはびこる虱を潰し、雨に濡れて腐ったような足を洗ってやる。

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印象的なのは長女のクロースアップで、多くを語らないが少なからず何か語っているような顔を見せる。一度だけ怒りをあらわにするのは、覗いていた伯母の娘を殴っただろうとその娘と伯母から詰問されるときで、言い返す言葉は整っていないが負けはしないという気概は見える。そして再び顔を綻ばせるのは山で糞拾いをしているときに友人の男の子がやってくるときであり、次女と三女と父がいなくなってしまい、家では無口な爺さん、学校ではなかなか溶け込むことができず、募っていた孤独がなくなる。そこで初めてといっていい提案《あなたの家に行ってもいい》をするのだが、なんでうちにくるんだよ、と一蹴される。つらい。

大叔父の収穫祭で村人が集結し、美味しそうな料理を食べ、大人だけで話すのは国が保険料の徴収をしにくるという話で、そんな金はない、食うものさえ足りていないのに、と村人たちは困惑し、現物徴収もされるのか、と心配する。100元といえば150円そこらだがそんな金すらこの村にはない。水、電気もやっとというところでぎりぎりのラインにある生活はこの村の中だけで成立するものであり、外に行けば通用せず出戻り、外から介入されると途端に立ちゆかなくなる。

出戻った父といっしょにやってきた母は明らかに次女をないがしろにして叱り、自分の娘の虱をつぶす。次女は母の歌を歌い、三女をおぶった長女が山をのぼっていく。

海抜3200メートルの山奥のこの場所には歌謡曲もテクノも労働歌も存在しない。

彼らにはカメラにむかって語るように指示があるわけではなく、カメラはただそこにいるといった感じで存在し、いまなお続く生活を映す。これから公開される《収容病棟》ではインタビューも行っている。《四川のうた》はいまはなき工場の生活を語るよう要請し、歴史を再構築しようとする意志が見える。

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