2012→2013→2016 WATTISMUSICFOR

映画/音楽/文学/美術

悪の法則 / 銀河 / 暗殺の森 / 忘れられた人々

男だ、女だとうだうだと言っている男たち。女たちは出てこず。

キャメロン・ディアス(マルキナ)とペネロペ・クルス(ローラ)、女豹と平凡な美人セレブ妻はプールサイドで話し合い、ダイヤモンドの価値について意見を交わす。キャメロンは資本主義的価値を、ペネロペは愛の価値を計る。

グリードによって裏社会へ踏み込んだカウンセラー=弁護士は女に気を取られ、簡単なミスをして窮地に立つ。マイケル・ファスベンダーは凡庸な大衆的セレブがよく似合う。《SHAME》とともにまったく共感させず、勝手に悲しみ、怒り、笑い、無関係なまま通り過ぎていく。反応が紋切り型であり、わかりやすく、ある意味ユーモラス。

そのビジネスパートナーのハビエル・バルデム(ライナー)はマルキナの大開脚カーセックス、字義通りのカーセックスを《見て》笑顔を浮かべることができずに殺される。怯える犬は食われる。

ボンネットに乗り、フロントガラスにVを押しつける。素晴らしい運動。反射神経は未知なるもののために鍛えておかなければならない。未知なるものに出会ったときの反応は2つに別れる。恐れおののき、その怯えを取り除こうとする者と、その出会いを歓ぶ者。前者だったライナーはナマズのように動くマルキナのVにヒいて、その出来事をカウンセラーに話さなければ気が済まなかった。ローラとともに愛の巣づくりに励んでいたカウンセラーは《愛しているなら他人にそんなことを話すもんじゃない》と言って戒める。間違いだらけの男たちの会話。すぐに破滅するカップルの好例。 

間違いに気づいたカウンセラーはそこから下降していく。ホテルの中庭テラスでカウンセラーと話すブラピ(ウェストリー)の一瞬の顔、怯え、混乱しており、助けてもらうのが当たり前だというように助言を請うカウンセラーにむける歪んだ顔は言葉なしで十分だった。OJ。

脚本コーマック・マッカーシーの著作は読んだことがないが、普通の脚本とは一風変わっていておもしろい。抽象会話が多く、物語の説明が少ないため、わかりにくいという感想もあるだろうが、物語の構造は裏社会の無慈悲な殺し合いという単純なものなので逆に説明がないほうが退屈せずにすむ。

命の価値は国によって異なり、文化、経済状況、構造という変数で変化していく。裏社会ではその命の価値が低く、金の価値が高く、殺しに価値が与えられる。カウンセラーが依る法は効果をもたず、信用は金で計られ、傷がつけば殺される。悲劇の物語はまったく救いなく終わり、また次の生贄が捧げられる。

裏社会のボスと電話で話すカウンセラーは悲劇性を高め、滔々と率直に語るが、殺しが日常であるボスはいつも通り会話を終え、電話を切る。これもただのゲームであり、退屈しのぎであり、金を稼ぐための道具であり、快楽がある。殺しの瞬間を見ていないマルキナの快楽はさっきまでそこにいた人間が自分の指示で消えることと、それによって自分の持ち金が増えることである。

その彼女はいつか殺されもしようが、また同じような人間が取って代わるだけ。

快楽を中心付近にもってくるなら音楽は必要だったのに、一カ所邪魔になっていただけで、無きに等しかった。

 

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まったく音楽のないブニュエルの映画《銀河》で《星の野》を目指して巡礼する二人、髭をたくわえたおっさんと神を信じない若者。無神論者が巡礼するということは老年にさしかかってやることも特にないからお遍路巡りでもしようと思い立った後期高齢者のようであるが、若者は神学校で「呪いあれ」とコール&レスポンスするおぞましい人々の中で法王がゲリラに銃殺される想像をするほどの想像力は持ち合わせている。

《自由の幻想》ほどではないが脈絡なくエピソードが挿入されて物語が進む。黒いマントを羽織った悪魔による箴言殉教者たるべく掌に杭をうちこまれながら恍惚の汗を流す修道女、マリアから撃ち落としたロザリオを手渡される男、しつこい神父のありがたいお話、宗教談義をしながら決闘し仲良く立ち去る貴族、ピエール・クレマンティ予定通りのマグダラのマリア、ヒッピーのようなキリスト、盲目の二人…… 二人はこうして目的地に辿り着き、マグダラのマリアと交わって悪魔の子どもを産ませる。キリストによって目は開かれない。

黒い服を着た男2人は無神論者だったが、1人がマリアの奇跡を目の当たりにし、涙を流し、宿にいた神父はありがたい話だからといってみなを呼び寄せ、これまでにあった奇跡について話す。それはあってもよさそうな話だし、盲目の人がキリストと話をし、信じることによって目が見えるようになるというのもありそうではある。

しかしそこで問題は終わらない。奇跡が起こったところでまた盲目になって溝に落ちないとは限らないし、奇跡は目的にはなるが欲望と同じで解決にはならない。

信仰する自分ではなく、自分を信仰するのでもなく、キリストを信仰するのであれば救いがやってくるという喜劇。「おまえなんかの言いなりになるかね」とおじいさんは若者に言ったが、ヒッピーキリストはみなにむかってそう思っているだろう。過去のもろもろの出来事はもう一度繰り返すことができるが、《恋はデジャヴ》のビル・マーレイと同様に同じ精神で経験することは不可能である。そこで人々は信仰する、未来の出来事と過去の出来事を繋げる出来事を。また繰り返すことを。

それは奇跡を願うことではない。一度過去にあったことがまた起こらないとは限らず、一度過去に起こったことならすでに奇跡ではない。ただ漠然とした目的的奇跡を願うことはキリストを信仰することに似ている。

ザイドルの《パラダイス:神》はさらに時代が進んだなかでの宗教の立ち位置を皮肉り、偶像のキリストがあってもそれは自慰の道具にされ、崇拝の対象にされ、唾を吐きかけられる不安定なモノであり、ミクロコスモスでさえ安定しない。不安定なところに持ちかけられるのが崇拝の対象=中心であり、それが機能しないならば現代で宗教をもつ意義はない。

何があっても崇拝される対象をもつこと、たとえ奇跡が起きなくとも信仰をつづけること、それは未来のものではなく、現在の時間で進んでいく。そして経験されることは常に対象との同一体験であり、精神的には不可能なはずの反復が可能になる。同一物による同一精神の反復。狂信的なミクロコスモスであり、いつまでも裏切られることはない。ただの信じるという行為、好みによる信仰はすぐに裏切りあるいは飽きが現れ、未来はなくなり、吐き捨てたくなるような過去が積もり積もっていくだけであり、どうせ抜けられない円環ならばそれを何度も反復し、過去と現在のあいだにある未来を見つけなければならない。

ピエール・クレマンティが超越的な態度でポーズを決め、遠くを見つめ、泥水たまりの中に足を浸すように。

 

そのピエール・クレマンティが変態ホモ野郎を演じるのが《暗殺の森》で、子どもの追いかけっこを、行き着く先も知らずに無邪気さで危険極まりない走り回りを演じて殺されたはずなのに生き返る不気味さをもって生き返る男はピエール・クレマンティにしかできない。

その変態ホモ野郎を敗戦とともに疲れ切った身体でなじるトランティニャンは《愛、アムール》で愛としか呼べない優しさでもってエマニュエル・リヴァを介抱した現在から見るとまだ若く、階段を華麗に斜めに駆け上がり、敏捷な動きで画面にリズムをつくる。

スパイとして潜入した先で無防備に《私はナチです》 と言ってしまうことが可能なのかどうかわからないが、奔放な妻のおかげか信頼を勝ち得、暗殺には成功するが、《三重スパイ》と同じく女はただ裏切られる。女二人の優美なダンスは見納めとなって互いに十分に見つめ合ったのにも関わらず結局信じてしまった女が負け、とはなんとも面白くはない。そこまでさせたのが変態野郎だということ自体は《悪は凡庸》というなぜだか人を戦慄させる凡庸な紋切り型でしかないところも…

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最初から最後までただの悪ガキが出来の悪い母親から生まれた子どもをいたぶって救いのない最期を迎えるのは《忘れられた人々》で《死刑台のエレベーター》の幼稚なガキと同じように観客にため息をつかせるガキ大将を見続けるのは退屈でしかないのだが、それは現実だから退屈なのだろう。

母の愛を求めつづける幼気な子どもと両親の愛を知らずに育ち、それを逆手にとっているようにも見えなくもないガキ大将の二人は手を繋ぐこともなく殴り合い、ばらばらになって死ぬ。教育のない社会、遊園地で裕福で恵まれた子どもたちが乗るメリーゴーランドをまわしつづける子どもたち、不平を言うばかりで優しさを見せないどうしようもない大人たち、ここでの大人は子どもたちの邪魔者でしかない。

更正院の長は子どもに信頼の証である金を渡し、子どもは信頼を受けたことによってようやく笑顔を見せるが、結局ガキ大将に捕まって元に戻る。更正をさせたとしても場所のアレンジメントは変化せず、場所を移る逃走か、殺人しか逃走の手段はない。

子どもの更正ではなく、社会を更正させるべきなのだが、そんなことが90分のうちで可能になるような映画はブニュエルはつくらない。

  

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