女と男のいる舗道 / オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ

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悲劇 と カップル。 

ゴダールの文学青年時代。ブリス・パランの素晴らしい講義と、アンナ・カリーナの可愛らしいダンスと憂い顔と涙と、男たちの身勝手さによる悲劇の幕切れにおける死で、物語としての悲劇にお別れを告げるゴダール

次の『はなればなれに』でも白黒を引き継ぎ、まあこれも悲劇といってしまえば悲劇なのだが、大衆的なルグランと物語とお別れし、『ウィークエンド』へ。

とにかくアンナ・カリーナが撮りたい、かわいい女の子のいろんな表情が見たい、そんな趣き。『裁かれるジャンヌ』を見て涙を流す顔、売春宿で3Pをする直前に窓から入る光を受けつつうつむいた顔、踊りながら笑う顔、自分の中でぐるぐるとまわる問いをぶつける真面目な顔、すべてのかわいい顔が氾濫している。

初見のときはブリス・パランが誰かわからず、何だこの頭の良いおっさんは、と思った。アンナ・カリーナの存在の危機に関する問いに、繋がりが希薄なようでいて誠実に、アドリブで答える。一つの答えとしてではなく、曖昧な問いをうまく思考できるように… 『女と男のいる舗道』がアンナ・カリーナの不憫な死によって悲劇と化してしまうのはこのシーンがあるからであり、ブリス・パランとの対話によってうまくいくはずだった思考が、その死によって断たれてしまう…といってもアンナ・カリーナはアドリブのシーンでついついカメラ目線になってしまい、問いを返してはいるものの話をちゃんと聞いているようには見えないが…

ホン・サンス『教授とわたし、そして映画』の教授は教室で二人の生徒から紋切り型の問いを受け、自分の経験から格言めいた答えしか出せず教え子に手を出し、「もし別れたら一年後、この木の下で会おう」とトレンディドラマの紋切り型しか繰り出さない糞教授。

教育…対話… 悲劇はそれらによって避けることができる。不可避の悲劇をも受け容れることができる、かもしれない。

 

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ』の吸血鬼カップル、イヴとアダムには差し迫って悲劇の色は薄い。ジャームッシュに悲劇は必要とされていない。『ミステリートレイン』はギャグカップルだったが、こちらは真面目なカップル。吸血鬼。

『ぼくのエリ』の自分が吸血鬼であることに気づき、狼狽するような様子はなく、吸血鬼として生きることを受け容れた吸血鬼たちが『ノスフェラトゥ』のように人を殺めることはせず、現代を生きる。何百年も前に生まれ、今まで死ぬことなく円環構造のなかで生きる姿が、ぐるぐると回るレコード、今もなお聴くことができる録音音楽にオーヴァーラップされる。

追っかけやその場所に根付く文化をいとも簡単にぶち壊す人間たちをゾンビと吐き捨て、銃弾まで用意してしまうアダムを、たしなめ、見守るイヴ。毎日が夜、食料は病院に、音楽は盗まれ掻き乱される生活に嫌気を覚えるアダムに、音楽を聴かせ、いっしょに踊るイヴ。『パーマネント・バケーション』からダンスシーンはお手の物、リズムを捉え、幸福が垣間見える。『Trapped By a Thing Called Love』…自分の場所をなくして、ゆっくりと沈んでいく、それを愛の罠と呼ぶ… 自分のいた場所を大切に思うようになったら愛の罠は解ける。アダムとイヴはそこにいっしょに沈んでいくが、邪魔者、イヴの妹エヴァがやってくる。ジョゼフ・ロージーの『エヴァの匂い』の悪女を思わせるエヴァは、ムチムチで常に可愛らしい笑顔を振りまき、ぴょんぴょん跳ねまわるミア・ワシコウスカ。『イノセント・ガーデン』でフィリップ・グラスの音楽で官能を覚え、どうしようもない家庭にルサンチマンを募らせていた彼女はいつしか欲望に忠実になり、秘密保持契約を交わしていた使いの男の血を吸う。工場排水は一瞬にして肉を溶かす。

デトロイトドライブ… ストローヴ=ユイレ『花婿、女優、そしてヒモ』のファスビンダーが笑える場面の前、夜の閑散とした街を滑らかにスライドしていくカメラがここにも。『ダウン・バイ・ロー』の始め。緩やかに始まり、徐々に速度を増すが、一定のところで止まり、あとはそのまま平行移動。見捨てられ、そこから頑として動こうとしない家、店、工場… デトロイトといえばテクノかジャズかと思ったが、地下クラブでは凡庸なロック。アダムとイヴが案外気に入っていて、肩透かしをくらう。『コーヒー&シガレッツ』のRZAがやっていた空手カット再び。ホワイトストライプスの2人が語るニコラ・テスラ。どちらもアダムがやり、語る。

ドライブやダンスや会話で終わる夜のあと、柱つきベッドで眠る2人の寝相がいい。眠りは自由。

モロッコはタンジールへ向った2人は今度は歩き、命の危機に曝され、吸血鬼の死を見、緑の月が浮かぶ廃墟の一角に座り、現地人の若々しいカップルを眺める。たしかに血はうまそうだった。キスと吸血の親和。

アダムは文句をたらたらと言っていて、イヴはそれを聞く。その2人の生活が中心にある。移動はしているが、彼らは生活している。どこかに向わざるを得なかったこれまでの作品にはない、定住。そこでアダムは音楽をつくる。イヴは遠くで動き回る。愛の罠にはまりつつも同棲することなく、苦楽を共にする、形。

   

 

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