『ドライブ』/『アウトレイジ』

今年日本で公開されてどの層からかわからないが絶賛されていた本作、どこが絶賛されているのかは知らず。

無口で誠実そうな煙草を吸わない自動車整備士、副業として運び屋、レーサー、スタントもやる男が主人公。隣人の子持ち女アイリーン(夫スタンダードは刑務所)の車を修理してやることでそこを始点に恋物語が始まる。言葉少なにふにゃっと笑う主人公に母性をくすぐられ、アメリカのマッチョどものようにすぐにセックスに奔ることなく子どもとも遊んでくれる誠実さにやられたのか、アイリーンは心を許す。

刑期を終えた夫スタンダードの帰宅とともに新たな展開へ。変な名前のスタンダードが殺されるところは主人公の横につけた黒い車の嫌な雰囲気で憶測できたが突然の発砲だったため、主人公とともに観客も飛び上がることになる。主人公が観客と同化する。このときだけ。カーチェイスでは暗黙の了解として追手が銃を使わず、主人公の無謀とも言えるバック走行で何とか逃げ切る。そしてモーテル、女と二人きりになって女を問い詰めていると(あの拳銃を模した右手は何とも言えない)手下登場で洗面所の女の顔はライフルでぶっとび、主人公はベッドマットをドアに投げて塞ぐ。そんなんで塞がんのか?!絶体絶命と思いきや案外間抜けな手下のおかげでライフルをゲットし、ぶっぱなし逃亡。このへんが手に汗握って面白いといえば面白いのかもしれない。


それからまた追手が来てなんとエレベーター内にアイリーンと主人公と追手の三人に!追手の内ポケットに銃を発見した主人公はとち狂ったか死ぬ前にどうしてもキスしたかったのかアイリーンにキスし、そこはまあスローモーションだからどれくらいの間があったか知らんが(そのうちにぶっ放されてもおかしくなかった)、暗黙の了解としてキスが終わるのを待って襲いかかってきた良心的な追手に、ようやくできたキスで満足した主人公がカウンターアタックをお見舞いして、顔をこれでもかというぐらいに踏みつぶす。恐かったんだね。アイリーン呆然。あのアイリーンを中心に据えてこちらを見つめさせる構図は後ろから撃たれてもおかしくないものであり、結構恐かった。そこが一番恐かった。いっそのこと撃たれたほうが面白かっただろう。


このニコラス・ウィンディング・レフンという長ったらしい名前の監督は「アウトレイジ」が好きなのか結構エグめの描写をする。善良そうな修理工場のおじさんの手首は引き裂かれるし、スタンダードの相棒の女の顔はぐちゃぐちゃ、追手の顔もぐちゃぐちゃ、トンカチ。それでも「アウトレイジ」には遠く及ばない。何より主人公の魅力がなさすぎる。この監督そしてこの映画を絶賛する人々が持ち上げる80年代には疑似クールな、ああ今思い浮かんだが村上春樹か、ハルキストたちが絶賛しているのかもしれない。クールを装ったただの無口、何とも言えないダサさ(さそり、拳銃の右手、つまようじ!)それらを目の当たりにして何度かすぅーーと心がひいていく瞬間があった。


青山真治の車、拳銃への愛が足りないとの批判はそれを聴いたときは行き過ぎだろうと思ったが、たしかではある。北野武は車も拳銃もちゃんとかっこよくうつす。そんなシーンはこの映画にない。ドキドキ、バーンだけで面白いなんてそんな感想は中学生でも言える。平凡な物語。愛する人のために、戦い、独り去っていくメロドラマ。しかし本当はアイリーンをあの駐車場で死なせたかったのかもしれない。知らないけど。


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