アラン・J・パクラ『パララックス・ビュー』

アラン・J・パクラ監督、ウォーレン・ビューティ主演と書いてはみたが、どちらにも大して興味はない。75年。

大形式の映画。大統領候補暗殺事件の陰謀を探る新聞記者ジョー・フラディと「パララックス・ビュー」という暗殺集団との戦い。SFのようなタワーの上で暗殺は行なわれ、それを見た者の命が狙われる。主人公のジョーは大して生に執着のない、人生に退屈している記者らしく女記者に陰謀説をもちかけられても乗り気にはならない(女が死んでやっと怪しむ)そんな奴でないと陰謀に1人で立ち向かうなんて無茶なことはしない。

酒場でミルクを頼むジョーに絡む田舎の警察官とジョーのグダグダの喧嘩は笑える。暗殺時の銃声よりでかい音で伸されたかに見えたジョーが壁をぶち破り警察官に殴り掛かる。そしてダムではフライフィッシングで敵の顔に傷を与え、溺死させる。大形式ながら何ともしょぼいエピソードが挟まれていて微笑ましい。カーチェイスで逃げるところも泥をはねて顔にこびりつき、さらに窓まで見えなくなってしまい、ショッピングモールに突っ込み、トラックの荷台に逃げ込む。

さすがに泥臭すぎると思ったのか次は海で敵か味方かはっきりしないタッカーとその用心棒の三人でボートに乗り、話し合いを行なう。何やら意味ありげな様子で用心棒に耳打ちするタッカー、それを見るジョー。と、そこでいきなりカメラが俯瞰にうつり、船は爆発。ジョーは命からがら抜け出す。ラッキー・ジョー。ここで不可解なのが死体が3つと報道されていることだ。ジョーは死んだことになるのか?ボートに乗っていた奴の名前が挙がっているわけでもないし、ジョーの死体が上がったわけでもない。

そしてジョーの家にパララックス・ビューの幹部がやってきて採用の旨を告げる。かなり怪しい光の当て方がされている。その辺はダムに行く前の刑事との話し合いあたりからちゃんとしている。ジョーはパララックス・ビューに潜入し、陰謀の有無を探るらしい。パララックス・ビューの本社に赴き、心理テストを受けるがそのときの映像が結構面白い。洗脳を目的とした「Happiness,Family,Mother,Father,Me,God」という言葉とそれにつづく写真が速度を上げながら次々と切り替わる。Meだけが孤独に沈む、残忍で暗いイメージで他は明るい爽やかなだったものが速度が上がるに従って性欲や愛国、ヒトラー、惨殺、気色悪いクロースアップなど醜悪かつ強烈なイメージにすり替えられていく。2、3分くらいあっただろうか、結構長かった。あれをずっと見せられれば洗脳も可能かもしれない。今はもっと手っ取り早い方法があるんだろうけど。


ある工作員の一人を尾行し、爆弾の入った鞄が入れられた飛行機に乗り込むジョー。どうするんだ?と思っていたらナプキンに「この飛行機には爆弾が仕掛けられている」と書き記し、それとなくCAに見つけさせ、緊急着陸させるという悠長な代物だった。鏡に同じことを書こうとしてやっぱりやめてゴシゴシと擦って消すところはかなり間抜けだった。そんなジョーはやはり最初から目をつけられていて偽名を使っていたこともバレてまたさらに偽名を使うが、それもバレバレ。その会話を録音していたテープを聴いていた新聞社の友人も殺されてしまう。そんなことつゆも知らないジョーは工作員をうまく騙した気になって、より重要そうな任務にあたる工作員を尾行し罠に嵌められ、終わり。

辛抱強く待ちつづけておけばまだ良かったものを、光に満ちた出口に向って走って逃げる、暗殺犯に仕立て上げられたジョーは無惨に撃ち殺される。

ジョーに対して感情移入することはないため殺されてもさして残念な気持ちにはならないがすっきりもしない。大形式さらには陰謀を扱っているということですっきり終わることはできないだろう。そこから小形式に移行するとしたら最初の殺された女にまつわる話を発展させるくらいか。子持ちにするとか。

音の処理はなかなか。ダムの轟音、銃声よりでかい壁をぶち破る音、何かが起きそうな不意の静寂、洗脳音、ムードミュージック。大形式なのにこじんまりとしたいい映画。


パララックス・ビュー [DVD]

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