北野武『Brother』

武の映画は夏の映画。ソナチネ、あの夏〜、菊次郎の夏・・・「Brother」はわからない。アメリカのチンピラたちの着込み具合からみて冬かもしれない。

日本のヤクザ界を追われてアメリカの弟の元に逃げた兄貴、その舎弟、弟の友達でアメリカでも名を上げるが、マフィアに殲滅される。日本を追われたのは兄弟分のためにしたことであり、途中、一度だけその兄弟分が出てくる。外様でのし上がったが、いいように思ってない奴に腹黒い、と言われて切腹する。腹黒いと罵った奴は親分に指を献上する。


指詰めはアメリカでも行なわれた。逃げたヤクの売人の指を怒った舎弟が切り落とす。大方紋切り型だが痛いシーンはつづくし、見せる。舎弟が自殺するところも指を詰めるところも見せる。「アウトレイジ」はそこに焦点を合わせてそこから現代的なヤクザを描いたが、ここでは日本のヤクザのあり方をアメリカに紹介するといったところか。切腹、兄貴のために自殺、舎弟想いの兄貴、指詰め・・・


兄貴がアメリカに乗り込んで弟のボスを殴り、戦争だと告げる。短絡的だがそうすることしかできない哀れさがあり、屋上から揺れ落ちる紙飛行機のように、いつどこで死んでもいいといったような諦観も見える。それに付き合わされる弟たちが最も哀れむべき存在だが、バスケや金いじりをしている様子から無能な付き添い人と形容できる。兄貴はそのうちの一人と仲良くなり、腹違いの弟よりも弟らしく扱われ、こいつのクロースアップで映画が終わる。あのシットを連発する微妙なにやけ泣きは忘れ難い。タイトルを「Brother」にしているように日本の兄弟をアメリカへ輸出してどう変容したか。最後に1人生き残った黒人の子分はスラングを連発して、昔の生活がよかったと喚く。そこで兄貴にもらった鞄を開けてみると大金が。そしてにやけ泣き、愛してるぜ、ブラザー。

利益を度外視した日本の舎弟とは大きく異なり、自分の命の危険、母を殺されたことで兄貴の死をも哀しまず、自分の命と金さえあれば愛が生まれるアメリカの舎弟。あの車内の叫びは冗談ではなく本心であり、だからこそ観客を驚かせる。どうせ殺されるんだろ!という叫びは誰に向けられたものでもなく、ただただ自分のためである。もちろん日本の舎弟の常軌を逸したパラノイア的な愛に同調するわけではないし、あれは時代遅れな、日本に固有なものである。しかし、アメリカの舎弟はあまりに単純すぎるし、利己的だ。それらはにやけ顔に集約される。


久石譲の音楽はあまりに叙情的で独特の雰囲気をつくりだす。何度も見たくはならない。静かな街の風景に合わせて鳴るピアノ。音楽のイメージが全体を固定化するというのは残念なことだ。


この後、「Dolls」が撮られる。兄弟愛から異性愛


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