2012→2013→2016 WATTISMUSICFOR

映画/音楽/文学/美術

Sparklehorse + Fennesz 「In The Fishtank」

何度も繰り返し聴かれるアルバム、再聴に耐えるアルバム。それは作品の強度に因るものか、あるいは代わり映えのしない自己に依るものか。本作は前者である。

ホワイトノイズは耳を痛めない程度に抑えられ、ノイズに対して抵抗のある人でも聴くことができる。スパークルホースの他のアルバムに突如現れる激しさは影を潜め、どこまでも沈潜した「It's a wonderful life」で奏でられた生の讃歌ともいうべき音が散りばめられている。


悲しげ、切ない、癒し。疲れ切った人々に寄り添ってしまうような音楽だと思われることもあるだろう。本作に聞き手を戸惑わせる突き放した音は現れない。ノイズをもつ二人だが、無機的とされる電子音であってもいつもそこには感情がある。メロディと耳に入りやすい美しい音。エモーショナルな展開はなく、淡々と最小限の音数で綴られる曲が並んでいる。


音響は20世紀後半に生まれたテクノの派生的なジャンルであり、癒しを中心に据えたすべて同じように聞こえてしまう退屈な音楽と誤解されてしまうことが多々ある。無理はない。しかし、音楽は聴くだけでいい。前もっての知識も言葉も必要ない、あるにこしたことはないが。現代音楽が敬遠されるのはその敷居の高さである。音響で批判を受けるのは音響のイージーリスニングとも呼べるものである。ブライアン・イーノの影響は大きい。「Music For Airport」や「Discreet Music」というイーノのアルバムは邪魔にならない現代の室内楽としてつくられた。好意的に受け入れられたのを見て多くのフォロワーが生まれ、シューゲイザーや音響でどこまでも軽い、似たようなメロディ、展開をもつ退屈で一回で飽きてしまう音楽が山ほど生み出された。音響が空間を扱うのはわかるが、それはイーノの作品で止まってしまってはならない。邪魔にならない音楽はあってもなくてもよい音楽であり、そこにあること自体が忘れ去られてしまうような音楽である。ないよりはマシといった酷い言葉さえ浮かんでくる。音響はたしかにわかりにくい。感性的なものに寄るところが大きく、音の処理や配置、バランスといったものを考察し、配分しなければならない。12Kというテイラー・デュプリーやステファン・マシューといったアーティストの音響作品を出しているレーベルがある。フィールドレコーディングや音響処理といった手法が中心であるため、批評も抽象的にならざるをえない。音楽の批評といったものがどのようになされるべきなのか、私はわかっていない。「音盤時代」という雑誌が音楽の批評の批評のようなものを行なっており、納得できることは多々ある。しかし、実際に音楽の批評にあたったときにレビュー以上のものが得られるかというとそれは少ない。


そんななかでジョン・ケージの「小鳥たちのために」は音楽の聞き方を大きく変えてくれた一冊だ。作曲家の著作であり、批評家の著作ではない。デイヴィット・トゥープの「音の海」はおもしろく読んだが、著者自身で言うように批評ではない。


音楽自体への新しい接し方を提示する批評。それは作品の感想や評論では導けない。フレームを決めて好きなものだけを聴いていても構わない、それは音楽に対する一つの姿勢であり、マニアはそのスタンスに近い。しかし、それは堂々巡りであり、快楽主義だ。自分のフレームから出ずに済み、楽で気持ちいい。それはそれで結構だと思うが、そういったものにはあまり興味がない。



高度な藝術でなければこの醜い現実から逃げ出すことはできないのだ。ハイカルチャーとかそういったものとは関係ない。各人が思うものでよいと思う。しかし、それは感情や主観に大きく依るものであっては痛いだけだ。
最近流行りのチルウェイブやダンスミュージック全般における現実逃避、快楽至上主義とはまったく異なる、逃走。現実逃避を主題におくもので逃げ切れるほど世界は甘くない。休日のレジャー的な、刹那的逃避はたしかに心地よいが、深みに嵌ってしまう恐れもあり、自覚的にならなければならない。ダンスミュージックは好んで聴いているが、ポップミュージックと同じような聞き方をしている気がする。そこからでも考察を重ねることで新しい聞き方を創造することができるだろう。


えらく脱線してしまった。「In the Fishtank」をつくってから数年でマークは自殺を選択した。拳銃自殺。詳細はわからないし語る気もない。
本作を聴いて感傷に浸ってしまうときもある。しかし、その無類の美しさを忘れてはいけない。


In The Fishtank 15

In The Fishtank 15


Discreet Music: Remastered

Discreet Music: Remastered


ジョン・ケージ小鳥たちのために

ジョン・ケージ小鳥たちのために