ジャン=リュック・ゴダール 「楽しい知識」

レオー(彼)とジュリエット・ベルト(彼女)の二人が夜な夜な黒いスタジオにやってきてテレビかスクリーンを見て話し合う。五月革命やらいろいろと。五月革命の前後またいで取られた本作にも政治色は色濃く反映されている。

二人の姿勢や位置が挟まれる映像と連関しているのか、たまに変わる。背中合わせ、向かい合う、後ろに立つ、並んでこちらを見つめる。

ジュリエット・ベルトの顔をまじまじと見るのはこれが初めてでけっして整った顔ではないが、特徴的な唇に目がいく(それを知ってか、ジュリエット・ベルトの唇を黒くつぶし、レオーの唇だけを見せるシーンがある)レオーはあまり動かないが、ジュリエット・ベルトは微笑み、首を振って柔らかな茶髪を揺らす。ゴダールが撮る女優の仕草はいつも素晴らしい。

マンガや写真に手書きで上書きした字に「たのしい知識」というのがあってそれがそのままタイトルになっているが、いつもどおりの素早く切り替わり断絶のまま置いていかれる映像と言葉についていくのは厳しい。

終盤で「帝国主義的映画」という文字通り、音階のあるハミングをするジュリエット・ベルトの首をレオーが締めて声を途切れさせ、喘ぎ声だけにし、最後はアーという単調な声にしてしまうシーンはわかりやすかった。

そしてそのままこの映画はつくられなくてもよかった映画である、と言い放ち、しかしこれから映画を見るときに本作のことを思い出すこともあるだろうと予言めいた言葉で締める。自分の知識が足りていないのだろう、残念ながらそれぐらいしか覚えていない。また思い出す時が来るのだろうか。ジュリエット・ベルトの唇は忘れないが。

ジガ・ヴェルトフ時代のゴダールの映画はとにかく語りが長い。字幕でなくフランス語を理解できればまた違ってくるのだろうが、途切れ途切れの字幕を読んでいくのでは限界がある。「あの時期に、こういう映画があった」そういう認識でゴダールは満足なのだろうか。ウィークエンドで見せた始まりも終わりも一応ある映画とは大きく異なるこれらの映画をどのように捉えればいいのか。従来の映画とは大きく異なる、ゴダールの教育的映画は何度も繰り返し見られることを要請しているのか。


ジャン=リュック・ゴダール+ジガ・ヴェルトフ集団 Blu-ray BOX (初回限定生産)

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