技術の概念は形式と内容という不毛な対立の克服を可能とする弁証法的な係留点を示している。——ハルーン・ファロッキ
パーソナル・ショッパー オリヴィエ・アサイヤス 2016 セレブに代わって服を買い付けるモウリーンは双子の兄をパリで亡くし、生前の誓い、先に死んだ方がメッセージを送る、という誓いを信じて霊媒、精霊の声を聞こうと、兄が住んでいた家に行き、電気も点け…
糞邦題「あの頃エッフェル塔の下で」って・・・ わたしの青春時代における3つの思い出。ぼくらのアルカディア。素晴らしい映像の連なり。 外交官になったポール・デダリュスの幼年時代、ソ連時代、そしてエステル、エピローグ・・・ エステルのパートが異様に長い…
もともとは『ショア』のため1975年に撮影されたインタヴューに、新たに撮りおろされたパートを加えて構成されている。中心となるインタヴュー・パートは《テレージェンシュタット》強制収容所のユダヤ人評議会最後の長老として戦争を生き延び、当時ローマに…
Boyhood/リンクレイター コールドプレイの《Yellow》で始まり、ポップス、オルタナが続く。Wilco,Yo la tengoには思い入れがあるようで。 12年の歳月をかけて撮影するとなるとその間にいろんな出来事がある。出演者が生きているか、アル中になってしまうか…
ジャン・ルノワール/水に救われたブーデュ 水から救われたブーデュは、本屋とその妻のあまりに親密な夢想が彼に次々とあてがう役を捨て、水によって救われる。人は生に到達するために演劇の外に出るが、水の流れにそって、すなわち時間の流れにそって、それ…
フィリップ・ガレル。 《ガレルが映画において説明していること、それは三つの身体、男と女と子供という問題である。<身振り>としての聖なる物語。》と、ドゥルーズ。 『愛の誕生』においては俳優ポール(ルー・カステル)とその妻、そして息子、そしても…
雌が強い世界は平和か。 いがみあい、戯れあう夫婦二人にとって失われたもの、できたかもしれない子ども。不妊。失われた、子どもとの時間。それを二人のなかで厳密なルールのもの、作り出す。禁じられた偶像創造。 そのルールは他者に子どもの存在を語らな…
オリヴィエ・アサイヤス。2004。 『欲望の翼』『花様年華』の面影はかすか。 ヘロインを買ったのはどちらか。刑の軽重を決めるには重要な嘘。罪の重さを決めるにはたいしたことがないような嘘だが、周りはその時ではなく傾向として女に天秤を傾ける。 息子の…
1954年、この年にダグラス・サークは三本も撮っている。その真ん中に位置する『心のともしび』原題は "Magnificent Obsession" ものすごい執念。 フィリップス夫人、ヘレン・フィリップス(ジェーン・ワイマン)と間接的にその夫の死の原因となったボブ・メ…
83年。 セーヌのほとり、ブレッソン《白夜》でも中心にあった遊覧船のライト、ロマン主義者の孤独。 パーティー見物人アレックスからミレーユへの、ペソアのような痛ましい語り《ぼくは彼女に会う前から彼女を愛撫していた》… 宇宙飛行士、星。いまは宇宙な…
《西瓜》をヴァギナの前に置いてむしゃぶりつく男から、キャベツを噛みちぎる男へ。 ツァイ・ミンリャンとリー・カンション。 息子、娘とコンテナ住まいの男が郊外の荒地で煙草を吸い、ため息をつくと二羽の鳩が飛び去る。 人間広告、強風は傍目にはわからず…
ガス・ヴァン・サントとマッド・デイモン。 グローバル社という適当につけた感丸出しの社名が表すように、リアリズムではない。基本的に都会人から見た、疲弊する地方という視点、最後もマッド・デイモン演じるスティーブの私怨を晴らし、自らの恋愛を成就さ…
政治がらみの暗殺か、心臓発作で夫アンテクを亡くした息子一人持ちの寡婦。息子は『永遠の僕たち』のヘンリー・ホッパーみたいにぼんやりと何かを見つめている。それは父か。 こういうところを狙ってくるのが宗教の勧誘、韓国映画の『シークレット・サンシャ…
ディーバ… ニュー・バーレスク… マチュー・アマルリック… アメリカン・ガラージ… ルイ・ルイ… パリとテレビラジオ電波にトラウマをもつ座長ジョアキム、がに股と釣り上がった目から《カエルさん》と呼ばれる。やりたいようにやっていると痛い目に合う。Uタ…
2004年。ジャ・ジャンクー。 2001年、中国、山東省。中国WTO加盟、天輪功狂信者が天安門広場で焼身自殺、2008年北京オリンピック決定、工場労働者の社員宿舎爆破事件、高速道路開通。 若者2人、無気力だらだらのビンビンとスカした痩せ男シャオジイはそれら…
オルタナ。ヨ・ラ・テンゴとソニック・ユース。 ハル・ハートリー。ニューヨークのアングラではなくインディ。 ウィキによると淀川じいさんが「勝手にしやがれ」に比して絶賛しているとのことだが… 「女は女である」「はなればなれに」のダンスは堕落したゆ…
瘋愛。'Til Madness do us part。 行き場のない収容者たちのそれでもまだつづく物語。 どこに行っても物語はつづく。 その場所、時、理由といった説明は物語を見るうえで必要な要素ではなく、邪推を引き起こす。収容所を映すカメラが暗転して最後に与えられ…
1987年にビート? ロバート・フランクが63歳のとき。ジョー・ストラマーとアート・リンゼイが主人公のギターを強奪するところは微笑ましい。 トム・ウェイツはブラジルカラー。緑のカラー、黄色のポロ、青いチノを着てお庭でパター練習。歌う。 車がやたらと…
「海炭市叙景」で地方の湿っているのか乾いているのかよくわからない空気を撮り、「夏の終り」の冒頭10分で満島ひかりの可愛さを掬いとった熊切和嘉。 まさかの錦糸町、楽天地シネマが満員になったのは賞のせいだろうが、よかったよかった。 タブー視、禁…
チェーホフ四大戯曲の一つ「桜の園」の再演。 登場人物はラネーフスカヤ(安部聡子)、アーニャ(河野早紀)、ワーリャ(窪田史恵)、ガーエフ(石田大)、ロパーヒン(小林洋平)、トロフィーモフ(ペーチャ - 小河原康二)。神西清訳の人物紹介の最初から…
「プレイタイム」「ぼくの伯父さん」もいいが、個人的にいちばん好きなのは「ぼくの伯父さんの休暇」 大がかりな装置、成金趣味の家もなく、こじんまりとしたバカンス先の海辺のホテルというより旅館のような小さなホテルで、例によってごにょごにょと何を話…
人に会えなくなるという状態。はなればなれ、仲違い、別れ、離婚、絶縁、絶交、死別。 これらの行為、状態は悲劇として扱われることが多く、他者と関係して生きていかねばならない人間ならいずれか一度は経験する。悲劇として扱われるのはそれらが悲しみを引…
ジョゼフ・コーネル《ピンクの宮殿》 どこに目をやっても楽しめる細部への拘泥、安定したショット、選び抜かれた無駄のない脚本、くだらないものの排除、愛すべき映画の引用、素晴らしいキャスト… ブニュエルだったら吐き気を催すであろう左右対称の多用、中…
宮崎駿『風立ちぬ』の宣伝文句「生きねば」。劇中では最後に死んだ菜穂子が夢に出てきて二郎に「生きて」と言う。なぜ生きるのか。自分は不幸だと思った瞬間に同時に派生する問いに親しい他人が介在し、反転する。しかし、その他人がいなかったら。 ジョーゼ…
成功者のお話から自らの境遇にトレースして憂鬱な毎日に少しでも希望を持つことは悪くないが、それは一般的に搾取と呼ばれている。しかしもちろん宣伝文句には《搾取》とは書かれず、希望、泣ける、スカッとする云々と+とされる言葉が並ぶ。 『アナと雪の女…
1972年、ミュンヘンオリンピックでイスラエルの選手11人がパレスチナ武装組織《黒い九月》により人質にとられ、全員殺害された事件を発端にしてイスラエルの英雄と呼ばれる父を持つ平凡で《退屈な》男が政府に頼まれて暗殺団のリーダーとなる。 ミュンヘン…
成瀬巳喜男、1960年。 タイトルロールから全編、ポランスキーの『水の中のナイフ』かと思うほど甘いジャズが流れ、それに似合った酒場が舞台となり、成瀬といえば高峰秀子が遅れて登場し、「夕方、わたしが階段を上るときが一番嫌だ」と言って現状への不満を…
『ミッドナイト・イン・パリ』がレア・セドゥに救われたように『ブルージャスミン』もケイト・ブランシェット、女優に救われている。 女性映画という呼び方は意味がわからないが、女性が主人公の映画。 ウディ・アレンのsexual abuse問題、無知なセレブリテ…
ポルトガル、リスボンの外れ、アフリカ移民のゲットー、フォンタイーニャス地区。 三姉妹の次女? ヴァンダは暗い部屋の一室で激しく咳き込んでいる。骨と皮だけの身体が弾み、その弾みで吐瀉物が口から溢れる。アルミホイルの上にタウンページに隠してある…